お疲れ様です。
大手人材サービス会社で、法務を担当している新一です。
今日は「派遣先でパワハラを受けた場合にどこに相談すればよいか、どうしたら派遣会社がまじめに対応してくれるか」等について書いていきます。
派遣先でパワハラを受けて悩んでる方は多いと思いますので、是非参考にしてください。
目次を作りましたので、読みたいところから読んでください。
1.まず、自分がされたことが本当に「パワハラ」に該当するかを確かめましょう。
派遣社員の皆様は、派遣先の指揮命令者や社員から嫌なことを言われたり、契約書に書いていないような業務を指示されることが何度かあると思います。
うちの会社でも派遣社員の方から、「派遣先でパワハラを受けた」という相談を受けることが多いです。
しかし、本当にパワハラに該当するものであることをしっかり説明できないと、派遣先も派遣会社も労働局も対応してくれないことがほとんどです。
パワハラであることをしっかり説明できないと「これはパワハラではなくて、派遣先で発生したコミュニケーション上の問題や、ケンカだ。これは法的に問題となることではない」と思われてしまいます。
そのため、「パワハラを受けた」と思った場合は、まずは、本当にパワハラなのかを確認しましょう。ただ、パワハラの認定は難しいので、最初は自分が調べられる範囲だけにして、自分の言っていることに一理あるということだけ確認できれば大丈夫です。
なお、パワハラに該当しない場合は、損害賠償を請求することはできませんが、派遣会社に相談をすることはできます。
このとき、注意点が1つあります。
それはいきなり派遣会社に対して「私、派遣先の●●●さんからパワハラを受けているんです!」というような相談はしないことです。
なぜかというと、パワハラのハードルはけっこう高く、なかなか「パワハラ」と認められることはないため、いきなり「派遣先の●●●さんからパワハラを受けているんです」という相談をされると、クレーマーのように見えてしまうからです。
そうすると、「これはパワハラではなくただのクレームだ。」と派遣会社の営業に思われて、しっかり対応してくれないおそれがあります。
また、派遣会社の人は基本的には派遣先には逆らえないので、派遣先との交渉をせずに、派遣社員のみなさんを説得し終わらせようとすることもあります。
しっかりパワハラに該当するのかどうかを確認して、証拠を準備してから、自分が被害者であるということを理解してもらるように派遣会社の人に相談しましょう。
証拠を集めるのは結構難しいですが、誰かが証言してくれるなら、その証言が使えます。一番助かるのは派遣先の担当者(指揮命令者)が、圧迫的な人で、派遣会社の営業担当にも圧迫的な話し方をするのであれば、派遣会社の営業担当の証言。周りに人で被害にあっている人がいれば、その被害者の証言が使えます。
しかし、通常上の立場の人のパワハラについて証言をしてくれる人はいないと思いますので、パワハラと思われるメールを印刷しておくことや、録音が証拠となります。
いずれにしても、本当にパワハラを受けているのであれば、派遣会社の営業担当に相談をしてください。
派遣会社の人は、クレーマーの対応は嫌ですが、正しいことを言っていると思う人にはしっかり対応してくれます。
2.そもそもどこからがパワハラなのか?
しかし、上の方に書いてあるように、何が「パワハラ」に該当するのか?という点は、実際にはとても判断が難しいです。
そこで、ここでは、現在のパワハラの基準になっている、厚労省が出しているパワハラの定義を紹介します。
■こちらです。
↓
職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位 や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう(職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告 P5)。
☆資料はこちらから見ることができます。
↓
職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告
これが現在の実務では基準になっていますので、絶対に知っておいてください。
※丸暗記する必要はないので、こういうものがあることと、どのような要素が必要なのかを理解しておいてください。
この基準を分解すると次の3つの要素に分類することができます。
①職場内の優位性を背景にしていること。
②業務の適正な範囲を超えていること。
③精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為であること。
■①(職場内の優位性を背景にしていること)について
まず、問題となっている行為が、職場における何らかの優位性を背景にしていることが必要です。
この点ですが、派遣社員からしたら派遣先の指揮命令者はは完全に上の立場の者です。
就業規則にも、派遣会社に提出する誓約書にも、指揮命令者の指示に従うよう書いてあるはずです。
したがって、相手が指揮命令者であれば、職場内の優位性を背景にしていることは間違いないです。
次に、指揮命令者ではない派遣先の社員が相手だった場合はどうでしょうか。
この点ですが、パワハラが成立するためには、「職場内の優位性」が認められればよいので、パワハラと主張したい行為の相手が、指揮命令者であることは必要ないです。
基本的に派遣社員は派遣先の社員(指揮命令者ではないとしても)との関係では弱い立場にいます。この点は、労働局や、派遣会社の人もわかっていますので、説明することは簡単です。
☆なお、「アークレイファクトリー事件」という裁判の第一審(大津地裁 平成24年10月30日判決)では、「特に、派遣労働者という、直接的な雇用関係がなく、派遣先の上司からの発言に対して、容易に反論することは困難であり、弱い立場にある者」という言い方をされており、派遣労働者に対する言動には留意するべきであると説示しています(ただ、その1つ上の裁判所ではこのような説示は削除されてしまっています。)。
☆派遣に関する判例について勉強したい方はこちらの本がおすすめです!
↓
■②(業務の適正な範囲を超えていること)について
この点については難しいのですが、人の人格を否定するような注意があった場合は、パワハラに該当しやすくなります。
パワハラにあたると判断した裁判例としては、次のようなものがあります。
・「新入社員以下だ、もう任せられない」等の発言をした事件
(サントリーホールディングスほか事件 東京地裁平成26年7月31日判決)
・「殺すぞ」といった発言、派遣社員が大事にしていた所有者に危害を与えるような発言をした事件
(アークレイファクトリー事件 大阪高裁平成25年10月9日判決)
・「ばばあ」等の発言をした事件
(シー・ヴィー・エス・ベイエリア事件 東京地裁平24.11.30判決)
・そのほかにもたくさんあります。パワハラについては、ケースバイケースですし、発言のひどさや、どのくらいの期間継続していたか、人前で侮辱されたのか、等様々な要素を考慮して認定されます。
ちなみに、パワハラについて勉強するならこの本がおすすめです。
↓
この記事もこの本を読んで調べたことを書いています。
(この記事を書くのに読んだ本は一番下にまとめて紹介します)。
■③(精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為)について
この点については、特に問題なく主張できますので気にする点ではないです。
しかし、実際、パワハラと認定されても支払ってもらえるお金は少ないです。
そのため、裁判をしたらパワハラと認定される、または単なる言いがかかりではない、と認めてもらえるような証拠(メール、録音、周囲の人の証言等)をしっかり準備して、派遣会社に相談して、派遣先と協議してもらうという方法が一番現実的です。
3.パワハラの相談先は、①派遣会社の営業、②労働局、それでもダメなら③弁護士、の3択。
さて、2でも少し書きましたが、パワハラの相談先は、
①派遣会社
②労働局
③弁護士
の順です。
基本的には、パワハラを受けていることの証拠をしっかり準備して、派遣会社に相談に行って、「それはひどい」と言ってもらえた場合には対応してもらえます。
この時の注意は、自分が派遣の仕事をしっかりしていることです。
仕事をしっかりしていない場合や、遅刻が多い場合は派遣先から派遣会社がクレームを受けますので、パワハラについて協議してもらうことは厳しくなります。無断欠席がある場合はさらに厳しくなります。
そのため、自分はしっかり仕事をしていることが大前提です。
とはいっても、派遣会社は派遣先になかなか強くいえないことがありますし、パワハラの事実を確認するのにわりと時間がかかります。
もしパワハラの相談をしっかりしているのに対応が悪い場合、今後は別の派遣会社に登録をした方がいいかもしれません。
大手の派遣会社の方がトラブル対応はしっかりしてくれます。
特にテンプスタッフやパソナは派遣社員への対応がいいことで有名です。
4.派遣会社がなかなか対応してくれない場合は、「訴訟を提起します」というと真面目に対応してくれます。
①労働局への相談
パワハラの証拠がちゃんとある場合は、基本的に派遣会社は対応してくれます。
しかし、証拠を見せても大した対応をしてくれない場合で、自分の言い分が正しいと思った場合は、労働局に相談に行きましょう。証拠を見せて相談すれば、どうすればよいかアドバイスをくれます。
労働局に相談にいって行ってくれることは、労働局の担当官に助言をもらうことと、あっせん委員という専門家(社労士・弁護士)を混ぜての話し合いの2つになります。
この場合は、派遣先と派遣会社に、労働局から通知書が届き、労働局に行って話し合いをすることになります。
こちらの言い分が的外れでない限り、労働局からの通知書が届いた時点で派遣先も派遣会社も注意をして対応します。
逆に的外れで、単なる業務上の注意レベルである場合は、労働局からの通知に対して、不参加という回答をすることが多いです。
②弁護士への相談:裁判をするということ
労働局への相談以上に、威力があるのは、「訴訟を提起します。」ということです。
この場合、会社にとっては大きなリスク事項ですので、力を入れて対応します。
ただし、訴訟を提起する場合に中途半端な準備しかしていないと単なるモンスターという扱いをされ、無視されてしまいます。
訴訟をする場合は、しっかり証拠を準備すること、弁護士に相談すること、話し合いに応じてもらえない場合は本当に訴訟をする覚悟を持つことが必要です。
ここまでの準備や覚悟ができない場合は、労働局に相談するくらいにしておくのがいいと思います。
5.パワハラを受けたけど、引き続き同じ派遣先で働きたい場合は、話し合いと妥協が大事!
さて、パワハラを受けたけど、派遣先は気に入っていて、派遣先に友達がいる場合があると思います。
派遣先で引き続き働きたい場合は、派遣先に対して文句を言ったり、攻撃的な態度をとってしまってはダメです。
対応としてはしっかり証拠を見せること、引き続き働きたいから話し合いをして、問題を解決したいことを伝えましょう。
また、これは直接雇用されている場合でも同じなのですが、結局上司でも、同じ会社の先輩等にはなかなか言い返すことはできないものです。「パワハラだ!」といって問題にするためには現実的には会社を辞める覚悟ないとできないところがあります。
パワハラを避けるためには、常に転職という選択肢を持っていることが必要だと思います。
パワハラを解決するのはとても難しく、正直転職の方が簡単だからです。
また、別の派遣会社に登録するのも有効です。
■次に派遣社員を辞めて、いっそ正社員を目指すという選択肢もあります。
転職を考えた場合にはエージェントに登録しておくことをおすすめします。
私が登録しているエージェントのうちおすすめのものです。
①DODA
自分は今の会社に入社するときは、パーソルキャリアの紹介で決まりました。
まじめにやって熱意が伝わればとても応援してもらえます。
毎日21:00ぐらいまで電話できますし、面接のときの反省も電話や対談で一緒にやってくれました。
(念のため事前に予定を聞いた上で相談するとよいです)
・DODAの登録画面
業界最大級の求人数と豊富な非公開求人!/DODAエージェントサービス
また、29歳以下の方向けで、未経験の職種にチャレンジしたい場合はこちらがもおすすめです。
・若者正社員チャレンジの登録画面
若者正社員チャレンジ事業
③MS-JapanMS-Japanは大手というイメージはないのかもしれませんが、管理部門(総務とか、人事とか、経理とか、法務とか、経営企画とか)を専門とした転職エージェントです。
つまり、営業職以外の転職に強い転職エージェントということになります。
「営業はしたくない」という方に超おすすめです。
なぜかというと、大手のエージェントは営業職は嫌だといっているにもかかわらず営業職を進めてくるところもあるのですが、MS-Japanはそもそも営業職の転職を扱っていないため、絶対に営業職の紹介をすることない(できない)からです。
また、未経験でもたくさんの案件を紹介してくれるところもお勧めの理由です。
ちなみに自分は1社目(社会事件経験なしの状態でした)はMS-Japanの紹介で入社しました
(年収425万円程度、残業なしでした)
・MS-Japanの登録画面
経理財務・人事総務・法務の求人・転職なら|管理部門特化型エージェントNo.1【MS-Japan】
また、派遣社員正社員になる方法についてまとめた記事もあります。
6.パワハラ被害が原因で、会社を辞める場合でも、自己都合退職にならない(会社都合退職)ことがあるか?
次に、パワハラが原因で会社を辞める場合でも、自己都合退職にならないことがあるか?について書いていきます。
派遣社員ではなく、いわゆる直接雇用の場合は、会社からパワハラを受け、それが原因で退職をした場合は、会社都合退職となる場合があります。下の条文を読んでください。
↓
(雇用保険法施行規則の第36条第8号です)
八 事業主又は当該事業主に雇用される労働者から就業環境が著しく害されるような言動を受けたこと。
ここで、「事業主」とは、自分ににとっての事業主であれば、派遣先ではなくて、会社会社のことになります。
そのため、派遣先でパワハラを受けたことを理由に退職した場合に、会社都合退職になるかは、はっきりしません。
※もちろん、詳細はハローワークに聞けば教えてもらえるはずですので、退職を考えた場合は、すぐにハローワークに相談してください。
私は、派遣社員との関係では、「ここでいう『事業主』とは派遣先のことである」、と解釈するべきだと思います。派遣法を読んでも、派遣先を派遣社員にとっての事業主として扱っている規定がありますし、そもそも派遣会社からパワハラを受けることなどほぼありませんので、派遣先を「事業主」として解釈しないと、派遣社員にとっては上の規定の意味がありません。
したがって、派遣先でパワハラを受けた場合でも、会社都合退職として、失業手当をもらえる可能性はあると思います。
【関連】:失業手当のもらい方について
契約終了時の失業保険のもらい方と会社都合か自己都合かの判断ポイント。
しかし、まずは、しっかりパワハラの事実を証明することが必要ですので、証拠集めが一番大事です。
7.最後に。しっかり勉強しておくことの必要性について。
最後に、結局知っていることや、情報収集ができている側が有利になります。
法律は弱い立場にいる人を保護するように作られていますので、法律の勉強は絶対大事です。
おすすめの本を紹介します。
☆派遣に関する判例について勉強したい方はこちらの本がおすすめです!↓
派遣法そのものについて勉強するのであれば、こちらの本がおすすめです。↓
この本は、派遣法という法律をちゃんと勉強するのに一番いい本だと思います。
まず派遣法の改正に関与した方だけで執筆されていますので、説得力があります。そして学問的な方向に偏っていない点がよいです。
裁判例もたくさんのっています。
今日はここまです。
読んでいただきありがとうございました。
【こちらの記事もいかがですか】