お疲れ様です。
大手人材派遣会社で法務をやっている新一です。
派遣労働者が、一般客等にけがをさせてしまった場合、例えば運送業務の最中に派遣労働者が一般客を引いてしまった場合、法律上、誰がどの程度の責任を負うのでしょうか?
本日は派遣労働者が他人をケガさせてしまった場合の責任の所在についてまとめたいと思います。
目次は以下の通りです。
1.労働者の責任
まず、真っ先に責任を負う者として思い浮かぶのは、派遣労働者です。
他人にけがをさせた本人ですので。
張本人の派遣労働者は、被害者に対して直接責任を負い、損害を賠償(簡単に言うと弁償です)する義務を負います。
このことは、派遣労働者であっても正社員でも、勤務中であってもプライベートであっても変わりません。
勤務中であることを理由に責任を負う者に影響があるとすれば、労働者を使用している者も被害者に対して責任を負い、損害を賠償することになる、という点ですが、労働者が責任を逃れることができるわけではありません。
2.派遣元の責任
次に派遣元は、派遣労働者の雇い主です。
従って、派遣労働者が、勤務に関係する行為によって他人に損害を与えてしまった場合、原則としてその損害を賠償する義務を負います。
例外的に損害を賠償しなくてもよい場合があるとすれば、①そもそも労働者に落ち度がない場合と、②「派遣元が派遣労働者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき」又は③「相当の注意をしても損害が生ずべきであったとき」です。
これら①~③は、派遣元が証明する必要があるので、実際には厳しいと思います。
また、ほとんどの事件では裁判になる前に話し合いで解決しますので、被害者や派遣先の担当者との話し合いのときに、「私共は、派遣労働者の選任・監督について相当の注意をしており、責任はないと考えます」とはいえないので(今後の取引関係もありますし…)、責任がないことの主張は基本無理です。
3.派遣先の責任
(1)派遣先も責任を負うのか?2つの考え方がある。
次に、考えられるのは、現実的に派遣労働者に指揮命令をしていた派遣先の責任です。
この点について考えてみると、
①派遣労働者は派遣元が派遣した人だし、派遣労働者は派遣元の従業員なのだから、派遣先は責任を負わないのではないか?
という考え方と
②実際に指揮命令しているのだから、派遣先にも責任があるのではないか?
という考え方ができます。
実務上は、真っ向からぶつかるのが一般的です。
結論から言うと、派遣先に民法715条の使用者責任を負わせた裁判例は見当たらないのですが、
派遣先も責任を負う可能性は高い
と思います。
(2)最高裁を参考に考えてみる。
派遣先も責任を負うと考えた理由は以下の通りです。
民法715条が適用されるための要件である使用関係の存在ですが、
使用者責任を負う使用者は、加害者と雇用契約を結んでいる必要はなく、「実質的に見て使用者が被用者を指揮監督するという関係があれば足りる」(最高裁昭和42年11月9日)(塩見先生の「基本講義 債権各論Ⅱ」P123)とのことです。
・塩見先生の本はこちらです。
↓
そして派遣先は、派遣労働者を指揮命令します。
そうすると、派遣先と派遣労働者の関係は、
「実質的に見て使用者が被用者を指揮監督するという関係」があるといえるからです。
また、鎌田耕一さん・諏訪康雄さん編集の「労働者派遣法」(執筆者全員が派遣法の立法に関与しており信頼性は高いと思います)のP234にも同様のことがかいてありました。
この本は、派遣法を勉強するのに一番お勧めの本です。
・こちらの本です。
↓
こちら、派遣法を体系的に勉強をするのに一番良い本です。
各条文の趣旨、判例の引用、検索のしやすさ、ともに一番お勧めです。
しかも著者が全員、派遣法の改正に関与しております。
4.まとめ
結論として、派遣労働者が他人にケガを負わせてしまった場合に責任を負うものは、派遣労働者・派遣元・派遣先の三者になる
5.残った課題
残った課題は、
①窓口は誰が担当するのか?
②責任の負担の割合は?
③派遣労働者の代わりに、被害者にお金を払った場合、派遣労働者にいくら請求できるの?またはいくら請求するのが妥当か?
です。
これらについては、追って調査・検討の上まとめたいと思います。
お読み頂きましてありがとうございました。
S新一