お疲れ様です。
人材業界(メイン派遣です)で法務をしている新一です。
派遣ビジネスで現在もっとも大きな話題といえば、派遣社員の無期転換権です。
そこで、本日は、現在厚生労働省(以下「厚労省」)も周知に励んでいる
「無期転換権」(「無期転換申込み権」も同じです。)について説明させて頂きます。
1.「無期転換権」とは?
(1)「無期転換権」の意味
無期転換権とは、
同一の使用者(自分のことを雇っている者(事業主や会社です))のもとで、
有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合に、
その使用者に対して自分を契約期間が決まっていない雇用契約(いつ終わるのかが決まっていない雇用契約)にするように申し込むことができる権利のことです(労働契約法第18条第1項第前文)。
(2)「無期転換権」という権利はどうして作られたのか?
「無期転換権」という権利が作られた理由は、
派遣社員のような、有期契約の労働者の雇用の安定のためです。
例えば派遣社員が5年間同じ派遣元で働いていたのであれば、その派遣社員はその派遣会社の長期的な戦力だったとえます。
そこで、その派遣社員の雇用の安定を図るために、有期の雇用契約を無期の雇用契約に変更しても、派遣会社にとって予想外の結果ではないので、無期の雇用契約に変更する権利を与えようと、と考えられるからです。
2.派遣社員は無期転換権を使ったら正社員になれるのか?
(1)派遣社員が無期転換を使っても正社員にはなれません。
こちらは多くの方が疑問に思われるかもしれませんが、
派遣社員が無期転換権を使っても正社員にはなれません。
※正確には会社によるのですが、無期転換権を使っても正社員になれる可能性はほぼないと考えていてよいです。
なぜかというと、無期転換権を使った場合に派遣社員の待遇どう変わるかというと、
法律は、期間が決まっていた雇用契約が、期間の定めのない雇用契約に変わるという点しか決めてないからです。
(2)無期転換した場合、給料・勤務地・勤務時間などの、契約期間以外の労働条件はどうなるのか?
では派遣社員の雇用契約のうち、期間以外の労働条件は、どうなるのか?といいますと、
契約期間以外の労働条件は会社の就業規則に従います。
このことは、労働契約法第18条第1項後段(2文目のことです)に書いてあります。
そして、同項には無期転換申込みにかかる労働契約の内容は、
そのときに締結している労働契約と「同一の労働条件(…「別段の定めのある部分を除く」)とする」と規定されております。
ここでいう「別段の定め」とは、就業規則に定めるのが一般的です。
就業規則では、派遣社員を終身雇用するかもしれないので、その終身雇用に備えた規程がされております。
会社によるのですが、これまでは勤務地や勤務時間が決まっていたとしても、勤務地の限定はない(総合職のように引っ越しを伴う転勤を規定している企業も多いです)、勤務時間も大体週に40時間程度・残業もある、兼業禁止、になることが多いです。
次に気になる給料とボーナスですが、会社によりけりです。
人が少ない会社で働いていて、ある程度スキルを持っていれば賃金の上昇・ボーナス支給に代わる可能性もあります。
(3)派遣労働者の待遇は?
一方、派遣労働者で特別なスキル(IT関係の派遣等)を持っている場合を除き、現状ではあまり期待できないといえます。
派遣の場合、お給料(時給)を上げる方法はスキルをアップして、時給を上げるように交渉するというスタイルが前提ですので、無期転換権を行使するよりは、何とかしてスキルアップをするとよいと思います。そうすれば、自分の好きな場所で、好きな業務だけを行いながらお金を稼ぐことができます。
無期転換権を使った場合、会社の就業規則のよるのですが、仕事を選べない可能性が高いです。そこで派遣労働者として働いている方は、仕事を選びつつ、スキルアップをして時給を上げるのが理想だと思います。
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3.無期転換権はどのようなときに権利を使えるのか?
(1)無期転換権の使い方 概要
無期転換権を使うために必要な条件は、次の通りです。
①同一の使用者との間で、
②5年を越えて雇用契約を継続していること
※この雇用契約を継続している期間を「通算雇用期間」といいます。(2)で細かく説明します。
③雇用契約が5年を超える日と含んでいる契約の期間中に
④無期転換の申し込みをすること
(2)派遣社員は自分の通算雇用期間はどうやって調べるのか?
主に会社で働ている人が多いと思いますので、以下「会社」と書きますが、
個人事業主に雇用されている人も無期転換権を取得します。
そして、自分が過去の労働条件明示書や、派遣就業の際にもらう就業条件明示書を持っていれば、それらを確認していただければ今何年間働いているかがわかります。
しかし、雇用期間が書いてあるそれらの書面や、データがない場合は、
自分の使用主である会社(派遣労働者の場合は派遣会社)に聞いて確認することになります。
(3)通算雇用期間はいつから数えるのか?
まず、「通算雇用期間」とは、今働いている会社で継続して働いている年数のことですが、まだその日が来ていなくても締結済みの契約期間も含みます。
つまり、もし、
・今が2017年10月10日として
・2013年4月1日から、6か月単位で、連続して契約をしている場合は
下のようになります。
①2013年4月1日~2013年9月末(通算契約期間は6月間)
②2013年10月1日~2014年3月末(通算契約期間は12か月間)
③2014年4月1日~2014年9月末(通算契約期間は、1年半)
…
⑫2017年11月1日~2018年3月末(通算契約期間は、5年丁度)
そして、無期転換権は、通算契約期間が5年を超えた日に発生しますので、上の例の場合は、⑫の後にもう一度契約期間が延長され、
2018年4月1日になったときに、無期転換権が発生します。
※なお、無期転換権が発生するのは、2018年4月1日ですが、
実際に雇用契約が無期となるのは、無期転換権が発生した当時の契約の最終日の翌日からです。したがって、上の例では、
契約⑬として、2018年4月1日~2018年9月末という契約更新があれば、
無期転換するのは、2018年10月1日からです。
実は、この点の理解があやふやになってしまっている方がいらっしゃるのですが、無期転換権が発生する日と実際に無期転換する日はずれますので間違えないでください。
(4)「継続して」ということは1日でも雇用契約がない期間があっても無期転換権発生は初めから数えるのか?
さて、無期転換権が発生するためには、雇用契約が連続している必要があります(労働契約法第18条第2項)。
しかし、1日でも雇用契約がない期間があればすぐリセットされるということではありません。
4.無期転換権の行使方法(申込み方法)は?
(1)書面でないと権利行使(申し込み)できないのか?
無期転換権は、書面でなくても行使することができます。
法律の原則上、権利の行使は、権利を行使することを表示すればできるからです。
会社によるかもしれませんが、契約社員であれば社内メールが送られてくるか、イントラに掲載されるか、等の方法が考えられます。
しかし、そもそも、無期転換権が発生したことを通知する義務は会社にはありません(教えてくれる方が親切ですが)。
そのため、自分が無期転換権を行使したいと思っている場合は、会社にお問い合わせをするとよいです。
もし、無期転換権について知りたいことがある場合は、厚生労働省のHPや労働局の労働契約法の管轄の課に電話をするとある程度調べることができます。
■労働局の無期転換についてのページ:
~「無期転換ルール取組促進キャンペーン」を実施しています!~
(2)申込みは書面でなくてもよいですが、書面で申し込むことをお勧めします。
上記のように、無期転換権は書面で行使しなくても有効です。
しかし、念には念を入れて、無期転換権を行使する際は、無期転換権を行使する意思を会社あてに送る方法で、権利行使する方がよいです。
厚労省のHPにも同じ趣旨が書いてあります。
■厚労省:無期転換についてのポータルサイト(Q&A)
※Q6です。
5.無期転換権を使うことのメリット・デメリット
(1)無期転換権を使うことのメリット
無期転換権を使うことのメリットは、契約更新を考えなくていいところです。
つまり、無期転換権を使うと、派遣会社との契約期間が無期(ずっと)になります。
そのため、契約更新がなくなり、契約期間の終了の都度、不安に思うことがなくなるのです。
(2)無期転換権を使うことのデメリット
この点はそれぞれの会社によるのですが、一般的には次のことがいえます。
①全国転勤あり
⇒勤務地や仕事内容を自分で選ぶことができない。
②労働時間が週に40時間程度(フルタイムが一般的)
③兼業・副業禁止
もっとも無期転換することを考えている派遣社員は、最終的には営業担当に確認するなどして無期転換した後の労働条件を確認しましょう。
そして、もし全国転勤あり、職種・業務は選べない、というような労働条件の場合は、そのような労働条件に納得できるかを考えましょう。
なお、無期転換権が発生した後は、雇用契約が存在する間は、いつでも無期転換権を使うことができます。
そのため、自分の好きな勤務地で、自分に合った仕事がができている間は無期転換権を使わない方がよいと思います。
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6.ベストな無期転換権の行使時期は、次のお仕事を紹介されないことがわかったとき
ベストな無期転換権の行使時期は、次のお仕事を紹介されないことがわかったときです。
自分の好きな勤務地で、自分に合った仕事がができている間は無期転換権を使わない方がよいと思う理由は、無期転換権を使うと登録型派遣のメリットである
■職種・勤務地を選べること・
■兼業・副業ができること
■働く時間を選ぶこと
というメリットがなくなってしまうからです。
しかも、無期転換権は、現在の派遣契約(正確には派遣契約を前提とした、派遣会社と派遣労働者の雇用契約です)が続いている限りは、いつでも使うことができます。
また、無期転換権を使っても時給はあがりません。
※交通費が支給される会社がありますが、基本的に無期の社員と有期の社員とでは、有期の社員の方が時給が高いです。
そうすると、派遣先がある間に無期転換権を使うメリットは何もありません。
また、契約更新の確認は多くの派遣会社の場合、契約期間満了の1か月後です。このタイミングで次の派遣先があるかどうかがわかることになります。
したがって、契約更新の確認の時に次の派遣先がないことが分かった場合に、無期転換権を使うのがベストです。
無期転換権を使った後次の派遣先がない場合は休業手当となる。
そして、無期転換権を使ったはいいが、次の派遣先がない場合どうなるか?というと、会社が今までの派遣先以外から仕事を紹介することになります。
それができない場合は休業手当となります。
ここで紹介される仕事は今までのように自分で選ぶことはできませんので、勤務地も職種も職種も会社が決めます。
さらに働く時間は35時間~40時間です。
※近くに似た職種があるときは、あまり遠くの場所の仕事を紹介されることはありません。しかし、近くに仕事がない場合は勤務地が遠くになることがあります。職種も同じように考えます。
このように、無期転換権を使うメリットがあるのは、今までの仕事がなくなってしまい、満足いく新しい仕事も紹介されないとき、ということになります。
以上、無期転換権についてでした。
今後もどんどん追記していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
お読み頂きましてありがとうございました。
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