お久しぶりです。
大手人材会社で法務をやっている新一です。
最近忙しすぎてずっと記事を書けませんでした。久しぶりに記事を書きます。
派遣業界では、組織単位の抵触日の3年満了、雇用安定措置、派遣社員の無期雇用化など様々な問題が生じています。私の会社でもそうです。
法務をやっていると、法律の不備とか、これは適当な法改正なのではないか?と思うところとか、「この法律派遣社員の人が知っていたら、派遣会社やばかったな」と思うものがたくさんあります。同じ職場に3年間しかいられないという前回の法改正(3年ルール)はいまだに何の意味もないと思っています。
派遣社員の方はそれぞれ、しっかり法律(制度)を知っておくべきことなのですが、今日は(乗り遅れてしまった感じがありますが)タイトルの通り、問題となったパソナの、「派遣先が1か月間なければ解雇」という就業規則について、少し書いていきたいと思います。
目次を作りましたので、知りたいところから読んでください。
1.パソナの「派遣先1か月間なければ解雇」という規程は違法。解雇も違法
(1)結論:違法です。
まず、結論ですが、皆様のご想像(期待?)の通り、パソナの「派遣先が1か月間なければ解雇」できるという就業規則の規程は違法と言ってよいです。
※パ正確には、ソナの就業規則は、派遣先が1か月間確保できず、そのことをスタッフに「通知した日から歴日数30日が経過したとき。」と書いてあるので、派遣先が30日間見つからなかった時点で解雇となるわけではないです。
裁判例等があるわけでも、国の判断が出されたわけでもないので、はっきり「パソナの『派遣先が1か月間なければ解雇』という就業規則は違法である」とは言えないのですが、解雇はそんなに簡単にできません。
少なくとも、ただ単に派遣先が1か月確保できないという理由での解雇はできません。例えば、派遣先が見つからなくて、さらに会社の経営状況上休業手当を支払う余裕がないとか、自社でも雇用を確保することができない、くらいの事情は必要となります。
※派遣社員を解雇することができるか?ということについては、こちらの記事を読んでください。
↓
派遣社員を解雇することが出来る場合ってどんな場合なのか?
大手のパソナにそんな事情が発生することはないと思いますので、派遣先が1か月見つからない程度の理由での解雇は無理だと言えます。
(2)就業規則に書いてあるから、「就業規則に従って退職となります」って言われたどうすればいいのか?
さて、(1)で書きました通り、派遣先が1か月見つからないから解雇、というのは無効です。
しかし、それでも「派遣先が1か月見つからなかったので修行規則にしたがって退職という形になります」のような案内やメールをされるおそれがあります。裁判は時間がかかるし、弁護士に相談するのはお金もたくさんかかります。おすすめできません。
では、「派遣先が1か月見つからないから解雇です」って言われた場合、どう回答すればよいのでしょうか?
回答の仕方は大きく2つです。
1つは正面からケンカするパターンです。(他の派遣会社で働くことを覚悟していないならお勧めできません)
回答例はこんな感じです。
「そんな簡単に解雇できないですよね?労働局に相談に行きますよ。」
このように返せば、解雇を撤回してもらえると思います。
ただ、この回答をそのままいうと営業担当との関係が悪くなってしまうので、ダメです。ここは大人になりましょう。目的は営業担当に法律の知識で勝つことではなく、働きやすい派遣先をゲットすることです。
「めんどくさい派遣社員だ」とか「クレームを言ってくるタイプの派遣社員だ」と思われるとそのあとに結局お仕事紹介をしてもらえなくなるので、営業担当との関係性は良好に保った方がいいです。
もう1つの回答はしっかり被害者になる方法です。
回答例はこんな感じです。
「え?せっかく無期雇用になったのに解雇されてしまうのですか…。紹介いただいたところでしっかり頑張りますので、お仕事紹介をお願いします!」という感じがよいと思います。こんな感じだと、労働局に駆け込まれた場合に、派遣会社が悪者扱いされることは確実なので、むげに扱うことはできません。
ただし、すでにご存じかと思いますが、ほとんどの派遣会社では、無期雇用の派遣社員となる場合は、「職場を選ぶことはできない」と言われていると思います。
これは法律上は有効です。
それはなぜかというと、無期雇用のため派遣先が見つからなくても「更新できませんでした」とか、「ポジションクローズです。別の派遣先を探します。(見つからない場合は更新できません)」ということにはできないために、派遣社員の方でも就業場所を選ぶことができないようなルールにしています。
無期雇用の派遣社員のルールについて、詳しくはこちらの記事を見てください。
↓
【派遣】無期転換権とは?無期転換権は今の仕事が続く間は使わない方がいい。
そのため、派遣会社に指示された就業場所で働くことを拒むと、派遣社員が就業規則違反となり、懲戒処分を受けることになります。最初は注意程度だと思いますが、何回も断ると解雇となります。正社員でも、「異動を断るなら解雇です」と言われるので、派遣社員でも派遣会社に指示された就業場所で働くことを断ったら「退職です」と言われる可能性が高いと思います。
2.さて。どうして、違法な就業規則が作られてしまったのか?
(1)労働基準監督署ってあまりしっかり就業規則チェックしない。
なんで、「違法な就業規則ができてしまうのか?」「国はしっかりチェックしていないのか?」という点が気になる方がいると思いますので、少し説明させて頂きます。
まず、就業規則は作成後、労働基準監督署に持っていって、ハンコをもらわないといけないのですが、これがあまりチェックされません。結構機械的にチェックされます。
(2)就業規則が違法かどうかと、その就業規則を根拠にした会社の解雇や指示が違法なのかは別です。
次に、ご存知の方もいると思いますが、一般論として、就業規則が適法かどうかと、その就業規則に基づいて会社が何か労働者に命じること(解雇や配置転換等色々)の適法性は、別々に判断されます。
つまり、「会社は、労働者が●●●した場合は解雇できる」と就業規則に書いてあったとしても、実際に労働者が「●●●」にあたることをしたことを理由に解雇した場合、その解雇が適法となるためには、いろいろな事情が影響します。そのためただ単に、「●●●」に当たるようなことをしただけでは解雇はできません。
3.そもそも、無期雇用派遣に申し込むべきなのか?
結論としては、無期雇用派遣に申込むのはお勧めしません。
交通費は出るかもしれませんが、合計したらほとんど給料は増えないはずです。
そもそも時給は、有期の方が高いのが一般的です。それはなぜかというと、無期雇用の場合は解雇のハードルがすごく高いので、現実的には定年まで雇わなければなりません。そのため、給料は定年まで雇うことができるように、低めになるのです。
したがって、無期雇用になっても、給料はあがりません。
無期雇用の派遣になることは、派遣先が見つからなくても解雇や雇止めされない代わりに職場を選ぶことができないという制度です。
残念ながら、職場を選ぶか(有期の派遣)、お給料の安定(無期の派遣)を選ぶか、の2択です。
どっちもを選びたいという気持ちがあると思いますが、そうする場合は、派遣社員としての無期雇用では無理です。転勤のない正社員になるしか方法はありません。
4.まとめ
まとめです。
①パソナの「派遣先が1か月間なければ解雇」という規程は違法
②「派遣先が見つからないから解雇」と言われた場合は、「低姿勢で(形だけでもいいです。特にメールは証拠として残るので効果あります)お仕事を紹介してください」と連絡する。
※だめなら労働局に相談してください。違法なので、会社に連絡してくれます。
③なんで、パソナの「派遣先が1か月間なければ解雇」という就業規則ができてしまうかというと、労働局がちゃんと見てないため・就業規則の適法性と、解雇そのものの適法性は別々で判断されるため。
④無期転換はおすすめできない
ということになります。
読んで頂きましてありがとうございました。
S新一